2014年7月8日（火）、 巨大台風8号が沖縄に接近というニュースが流れるこの日の東京は快晴。真夏の陽ざしが素肌を焦がすような天気でした。この日、防衛省市谷台見学を盛り込む第23回お江戸散策を実施しました。防衛省の見学は、３週間前に見学者の住所、氏名、生年月日の申告を求められ、当然のことでしょうが、厳重なセキュリティの空気を感じました。9：30 、省内に入ってからは、防衛省係員の案内での見学となりました。防衛大臣、統合、陸、海、空各幕僚監部等、国家防衛の中枢機関のある「庁舎Ａ棟」やその他庁舎の説明を受けたあと、戦後、極東軍事裁判（東京裁判）の行われた「市ヶ谷記念館」へ入館しました。この建物は、新庁舎が作られるとき、取り壊しの予定であったが、日本の歴史上、重大な事件が関わっていることから保存され、記念館として残されたのでした。館内には作家 三島由紀夫が自殺した「東部方面総監室」や陛下の休息所「旧便殿の間」などが保存されており、当時の様子を偲ぶことができます。江戸時代は尾張藩上屋敷だったというこの敷地一帯は、想像以上に広く、当時の大名屋敷の大きさを改めて認識しました。敷地の東端部には、自衛隊が使用していたヘリコプターなどが展示されており、メモリアルゾーンには、自衛隊員の殉職者慰霊碑、終戦の日に自決した阿南惟幾（これちか)陸軍大臣の慰霊碑などがあり、国家のために生命を捧げた人たちへ敬意を表さずにはいられない。市ヶ谷台の見学は２時間を超え、省外に出たときは、11時半を過ぎていた。
中央線で市ヶ谷から、御茶ノ水に移動し、聖橋口に出て、ニコライ堂へ向かう。ビザンチン様式建築で、異国情緒に満ちたニコライ堂は、その鐘楼の鐘の音色とともに駿河台の人気スポットだが、折しも、われわれが着いた時に、鐘が鳴り出し、独特の音色を聞くことができて幸運であった。東京ＹＷＣＡ会館が近くにある。ここは幕末期日米修好条約批准書交換の遣米使節として渡米し、帰国後、幕府の中枢にあって、「横須賀製鉄所」の建設、横浜に「フランス語学校」の設立、日本最初の商社「兵庫商社」の設立などに尽力した小栗上野介の生誕地であり、屋敷があったところである。国家の大事をした人物の屋敷跡も、その足跡や面影は遺されていない。 12時が過ぎた。昼食を明治大学 学生食堂で取ることにした。折しも、ピーク時、大食堂も混雑で、食事を取るまでに 時間を要したが、現在の学生たちとテーブルを並べて食べられたのも一興であった。味はうまいと云う程ではないが悪くはない。午後からは、明大博物館に入った。入館は無料である。大学博物館のなかでも、刑事部門では、江戸の捕物道具や拷問、処刑具などが展示されており、人権抑圧の時代の歴史を興味深く、学ぶことが出来た。また、同館内に、明大出身の作詞家 阿久悠のメモリアルコーナーがある。日本の歌謡曲の世界に金字塔を打ち立てた偉大な作詞家の足跡は、室内に展示されているヒット曲の一覧を見るだけで、曲が浮かんでくる。レコード大賞に選ばれた曲をいくつも作詞しているのだ。興味のある者にはじっくり鑑賞して味わいたい所であった。明大本校の周辺には夏目漱石が学んだという錦華小学校や大田道灌ゆかりの神社がある。現在でも、無病息災を祈る人々の篤い信仰に支えられているようだ。ここから淡路町に向かい、左に折れて万世橋へ向かった。かって万世橋畔には万世橋駅という国鉄の駅舎が建っていた。神田と御茶ノ水の間にあり、駅間が近いことから利用者が減り、昭和初期に廃駅となった。駅舎はその後、交通博物館などに利用されたが、現在は、旧万世橋駅の赤レンガ高架橋の遺構を生かした新しい商業施設『マーチエキュート神田万世橋』になっている。
万世橋から秋葉原電気街を通り、国電のガードを抜けると、右手に入る小道がある。まっすぐ進むと神田川に架かる神田ふれあい橋がある。正面には柳森神社の看板が大きく見え、川の下流には和泉橋が見える。江戸期には、この川の両岸には柳が植えられ柳土手と呼ばれる風光明媚な景観であったという。柳森神社の拝殿に向かう。お狸さんと呼ばれて親しまれているこの神社は商売繁盛、出世開眼にご利益があるとされ、庶民たちの篤い信仰を受けていた。当社は江戸三森社の一つであり、今回当社を訪れたことで、江戸三森社（烏森神社、椙森神社、柳森神社）の散策達成となった。この神社から昭和通りに出て岩本町１丁目交差点を東に入る児童公園がある、ここが江戸時代、北辰一刀流千葉周作が剣術道場を開いていた玄武館跡である。現在は、碑が残るのみで当時の様子を浮かべるすべもない。ここから、再び北上して、神田川方面に進むと浅草橋が掛かる所に出る。江戸期には浅草見附が置かれた所である。神田川沿いを更に下って、進んで行くと隅田川に合流するところに柳橋がある。明治期には新橋とともに政治家、実業家、芸人たちに贔屓にされて大いに栄えたと云う。初代・総理大臣になった伊藤博文がよく利用していた高級料亭「亀清楼」は現在も営業している。川には屋形舟が立ち並び橋畔の風情から、江戸の面影をかすかに浮かべることができる。 今回の散策はこの橋で解散と相成りました。（石井義文）