〔本郷・湯島界隈〕 平成22年(2010) 6月5日(土)
  2年前の3月にはじめた散策も、第6回目を迎えました。今回は、本郷と湯島界隈を取り上げました。まづ、駿河台側御茶ノ水橋、聖橋からの景観を眺めて、江戸の初期に江戸城防衛の目的で丘を切り開いて作られた神田川の風情にふれてから、江戸時代第五代将軍綱吉が創った儒学振興の中心であった昌平坂学問所(湯島聖堂)を見学しました。明治維新後も文部省が置かれ、学問の中心となった聖堂は学ぶことの尊さの息吹を感じる所でした。次に訪れたのは、江戸天下祭で親しまれる神田明神。平安の昔に創建され、江戸の総鎮守として尊崇されてきた堂々たる社殿は風格を備えていて、毎年5月に行われる盛大な祭の様子が境内の雰囲気から伝わってきます。そして江戸の初期に隆盛した霊雲寺を経て、春日の局ゆかりの麟祥院へ。権勢を誇った春日局の墓は、墓石に四方から穴が貫通している大変めずらしい形をしていました。 これは局が「黄泉からも天下のご政道を見守れる墓」を作ってほしいと遺言したことから造られたとのことでした。また、同所が東洋大学の発祥地であることも知りました。麟祥院からは春日通りを東方に向かって進み、婦系図で有名な湯島天満宮へ辿りつきました。折りしも結婚式の場に遭遇し、別れ話ならぬ、縁結びのシーンが「お蔦・主税」の悲恋物語の気分を和らげてくれました。 切通坂を下って、次に訪ずれたところは、ジョサイア・コンドルの設計した旧岩崎記念館。同館は、折りしも大河ドラマ「龍馬伝」で話題になっていることもあり、多くの観光客が来館していて、説明員も熱心に岩崎弥太郎一族の歴史を語っていました。この屋敷に沿った坂道が森鴎外の小説「雁」の舞台の無縁坂。ここを上って鉄門をくぐると高度な医療設備を備えた東大医学部付属病院に着きました。昼食はここの食堂で取ることにしました。廉価でメニューも豊富、お味もグーでした。
  昼食後は広い構内をゆっくり散歩して、東大の名所、三四郎池安田講堂、赤門を見学しました。日本最高の学府に学ぶ学生たちも、眼鏡越しには孤高の存在に映って見えました。しばし徘徊の後、樋口一葉が子どものころに過ごした法真寺を経て、本郷中央教会へ向かいました。この教会は、名曲「故郷」「朧月夜」を作曲した敬虔なクリスチャン岡野貞一が賛美歌のオルガン演奏をしていた教会で、現存しているオルガンを拝見させてくれました。まだ、現役で演奏されていると聞き、100年の年月を経ても岡野貞一の奏でた音色が聞けるとは感無量でした。次に向かった菊坂界隈では、樋口一葉ばかりでなく、菊富士ホテルにたむろしていた谷崎潤一郎、直木三十五、炭団坂を登ったところには坪内逍遥、燕楽軒で働いていた宇野千代、鐙坂には金田一京助、理髪店「喜の床」に下宿していた石川啄木、菊坂下に居た宮沢賢治等、文壇で名を残したそうそうたる顔ぶれの足跡を知ることができました。今回の散策も江戸から明治・昭和初期に至る、当時の様子を偲べる楽しい散策でした。この後「かねやす」の前を抜けて、駅付近の居酒屋に集い、のどを潤し、笑いのひとときを過しました。(文:石井義文・資料
【懇親会】   本郷3丁目付近の居酒屋